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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)14277号 判決

原告 中小企業金融公庫

右代表者総裁 渡辺喜一

右訴訟代理人弁護士 上野隆司

高山満

田中博文

被告 柴田商事株式会社

右代表者代表取締役 柴田敏

被告 柴田長次

柴田敏

柴田英一

右被告四名訴訟代理人弁護士 結城康郎

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金四三三一万九九四三円及びうち金四一一〇万円に対する昭和六一年四月二六日から支払済みに至るまで年一四・五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

理由

一  柴田商事への貸付

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  長次らの連帯保証の有無

1  ≪証拠≫によれば、

(一)  柴田商事は、被告らのほか従業員一名の会社であり、敏が形式的には代表取締役社長となつているが、実際に柴田商事を取り仕切つていたのは同じ代表取締役である長次であつたこと、

(二)  英一は柴田商事の営業を担当する取締役であつたが、対外的には専務取締役を名乗つていたこと、

(三)  敏と長次は夫婦であり、英一は両名間の長男であること、

(四)  柴田商事では、資金繰りに窮していたところ、取引金融機関の紹介により原告から融資を受けられることになり、長次が原告の担当者及川皓平と交渉し、本件契約を締結するに至たり、長次は、昭和五九年八月一一日、契約書に債務者として柴田商事の会社印を押印したほか、持参していた長次、敏及び英一の印鑑を、各連帯保証人名下に押印したこと、

この契約締結に際しては、敏及び英一は臨席していなかつたこと、

長次は、この契約締結につき、事前に敏には話をして了承を得たが、英一には話をしていなかつたこと、

(五)  原告では、一般的な取扱いとして、融資の際、債務会社の代表取締役には連帯保証人となつて貰つていたこと、

(六)  右契約に際し、長次は、右契約による債務を担保するため、長次及び英一の所有する不動産に抵当権を設定する旨の契約を原告との間で締結したこと、

右抵当権設定契約書には、英一名下に英一の印鑑が押印されているが、これも、長次が所持していた印鑑を用いて押印したもので、英一の了解を得ていなかつたこと、

(七)  柴田商事は、借入金の金利負担に堪えられず、昭和六一年四月倒産したこと、

(八)  なお、柴田商事は、昭和五八年三月二四日にも、原告から三〇〇〇万円を借り受けており、この借受けの際にも、本件と同様に、長次、敏及び英一が連帯保証人となり、また、長次及び英一がその所有する不動産に抵当権を設定していたこと、

そして、この契約締結に際しても、長次が一人で契約を締結したこと

以上の事実が認められ、右認定に反する証人及川の契約締結に際し英一が立ち会つた旨並びに契約締結につき敏及び英一に面談し、同人らの同意を予め得ていた旨の供述部分は、長次及び英一の供述に照らし信用することができず、このほか右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上の事実によれば、長次が本件借受けにつき連帯保証をしたことは明らかであり、また、長次が、敏名義でする連帯保証契約締結に関し、代理人ないし使者として行動することにつき敏から授権を得ていたものと認めるのが相当である。

これに対し、長次に、英一名義で契約を締結することにつき、英一の明示の同意があつたと認めることはできない。

3  しかし、以下の諸事情によれば、英一は、長次が本件契約締結に関し、代理人ないし使者として行動することにつき暗黙の了承を与えていたものと認めるのが相当である。

(一)  昭和五八年三月二四日、柴田商事は、原告から三〇〇〇万円を借り受けたが、その際にも、長次が単独で、敏及び英一名義で連帯保証を約し、また、英一所有不動産についても抵当権設定を約束しているが、この契約の効力を英一が争つていない(この点は弁論の全趣旨により認められる。)。

(二)  柴田商事は、株式会社であるとはいえ、長次ら家族で経営している程度の会社であり、かかる会社にあつては、経営に関与している家族が会社の債務につき連帯保証人となることはさほど稀なことではない。

英一自身も、その本人尋問の際には、父親が行つたことなので仕方がないと思つている旨一旦は述べている。

(三)  本件契約の際に、長次が英一の印鑑を用いて同人名下に押印することができたのは、長次が英一の印鑑を日常保管していたからであり(この点は長次及び英一の各本人尋問の結果により認められる。)、これによると、英一も、同人ないし同人の家族あるいは柴田商事のためにする行為については、自己が債務を負う事態となつても、それを黙認していたものと見れないではない。

(四)  資金繰りに窮していた柴田商事にとつては、長期運転資金を目的とする本件貸付により、経理上大きな利益を得ることができたものと推認することができるし、また、本件融資がなければ、柴田商事の倒産は、もつと早い時期に到来していたものと推認されるところであり、英一も、柴田商事が資金繰りに窮していることは察知していたものと推認されるから、相談を受ければ、本件貸付を受けるため、連帯保証人となることを拒むことはなかつたと推認される。

(五)  長次も、本件契約締結時には、後で英一の同意を得ることができるものとの判断の下に、本件契約書に英一の印鑑を用いて押印したものと推認することができる。

(六)  当時、英一が連帯保証人となることや、抵当権設定に反対していれば、本件融資を受けることができなかつた可能性も強い。当時としては、柴田商事も、被告らも、融資を受けることが最優先の事項であつたものと推認されるから、英一が連帯保証人となることに反対することは考えられないところである。

(七)  また、当時英一は営業を担当し、外回りのため外出していることが多かつた(このことは英一の本人尋問の結果により認められる。)が、資金繰りに窮していた柴田商事にとつて、その会社規模からいつて、本件五〇〇〇万円の借受けは大きく、親子間でこれに関して話題になつたことがなかつたとは考えにくいし、少なくとも本件貸付を英一も察していたものと推認される。前記しているように、英一は、契約締結には直接は関与していないが、本件契約締結前に、原告の担当者及川が柴田商事を訪れた際、及川は、英一と面会したことが証人及川皓平の証言により認められ(右認定に反する証拠はない)、英一も原告との交渉が行われていることを了知していたと推認されるからである。

4  長次及び英一は、その各本人尋問の際には、右に反する趣旨の供述をしているが、契約締結時における当事者の意思は右認定のとおりであつたと認めるのが相当であり、これに反する右供述部分は信用することができない。

三  残債務額

請求原因3の事実は、≪証拠≫及び弁論の全趣旨により認めることができ、右認定に反する証拠はない。

四  結論

右事実によれば、原告の請求は理由があるのでこれを認容

(裁判官 田中康久)

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